カルテを開示する理由
当院では20年ほど前から患者さまへのカルテ開示を行っています。
2000年にはWindowsで起動するシステムを作り、ISDN回線を利用して病院と診療所をつなぎ、患者さまが電子カルテを閲覧できるサービスを開始しました。その後2001年にカードリーダーを使用して、WEB上で医師と患者さま双方向で閲覧できるシステムを構築。さらに2005年には、登録さえしておけばベッドサイド端末で患者さまが自分のカルテを見ることのできるシステムを作りました。そうして今に至るわけですが、こういった試みを当院では当たり前のこととして続けてきています。
これらアクションの根幹になる考え方は、当院の医療に対するコンセプトがベースとなっています。
そのコンセプトは、【1.人間性の尊重】【2.個別性の尊重】【3.知る権利の尊重】という三つから成っています。
患者さまの人間性を、個別性を、そして知る権利を尊重した場合、きわめて自然な流れとして「参加型医療の実現」が必須となってくる。これが、当院が長らくカルテを開示し続けてきた理由です。
医療の本来あるべき姿とは
当院の目指す「参加型医療の実現」とは、患者さまの満足度を上げることに加え、医療従事者である自分たちを守ることにつながる、ということなのです。これが根付くことで、病院自体の風土を良い状態で保つことができるわけですから。
事実、カルテを患者さまに見せられないという医師は、いま当院には一人もいません。前述したとおり、医療サービスは患者さまとの協業の中でしか成立しないのです。だったら協業する者同士である患者さまがまず自分の病気について深く知ること、そして医師がそれをどう治療するかを知るのは当然の流れと言えるのではないでしょうか。
医療とは元来、人に対しどうあるべきなのか? という非常に根本的なことを突き詰めて考えた結果が、いまのカルテ開示へとスムーズにつながっています。医療が医師と患者さまの協業である限り、双方が良いパートナーシップを築くことが肝要であり、そのためのツールとしてカルテ開示は非常に適しているのです。
更に、できれば患者さまから医師への質問も、アプリからできるようになるといいですね。現場の医師は多忙なため、すぐに返事をすることは難しいかと思いますが、次回の診察の際に一緒にコメントを見ながら回答することができれば、患者さまの安心感は更にアップするのではと考えています。
医療行為がAIに取って代わられてゆく中、それでも「医師」という人間に求められること。それは取りも直さず、患者さまとの密なコミュニケーションによって得てゆく信頼、と言い切れるでしょう。
参加型医療の実現
医療は、あくまでもサービスです。医学は一人でもできますが、医療がサービスである限り、患者さまやご家族といった顧客がいなければそもそも成立しません。そしてサービスというのは元来、顧客と提供者が一緒に力をあわせて作り上げてゆく「プロセスそのもの」が製品になるのです。そこには不確実性はつきもので、こと医療の場合は力を合わせるべき対象が患者さまである限り、常に高いリスクにさらされています。個々の患者さまの体や健康や、命にかかわることなのですから。
ではどうすれば医療者側がリスクをマネジメントでき、かつ患者さまの満足につなげられるか? 答えは、「患者さまにも医療に参加してもらうこと」。
もちろん事故などは起こらないよう細心の注意を払っていますが、それでも起こってしまった場合、最大のリスクヘッジとなるのは「日頃からの信頼関係の構築」なのです。医療者と患者さま、双方がいかに透明性を保った関係でいられるか。関係性が極めてクリアであればあるほど、例えば病院側の内部隠蔽・内部告発なども不可能になってゆきます。